2018 / 5 / 2 / Wed.香港迷のおすすめ

香港で20万人以上を動員する大ヒット作
映画『29歳問題』キーレン・パン監督
特別インタビュー

ワイヤーアクションも銃撃シーンも一切なし。人気舞台の映画化ではあるけれども監督は無名、というドラマ作品が異例の興行ベストテンに7週連続ランクインし、香港での観客動員20万人を超える大ヒットを記録。そんな注目作『29歳問題』が2018年5月19日より日本で公開されます。オリジナルの舞台版では作、演出、主演(二役)を手がけ、映画化にあたり初めてメガホンを取ったキーレン・パン監督に作品と香港への思いを語っていただきました。

ストーリー

2005年の香港。30歳の誕生日を目前に控えたクリスティは、仕事もプライベートも充実した都会的なキャリア女性。けれど、心に生まれた小さなほころびが少しずつ広がっているのを感じている。そんなときに追い打ちをかけるように家主の都合で一人暮らしの部屋から追い出されてしまう。多忙すぎて部屋探しもままならず、友人のつてで移ったところは、住人がパリ旅行に行っている間だけの仮住まい。その部屋で住人ティンロの日記を見つけたクリスティは、偶然にも誕生日が同じだと知り、部屋の主に俄然興味を持ち始め、そこに書かれているティンロのささやかな日常に知らず知らずのうち惹かれていく…。

女性だけじゃない、29歳だけじゃない問題

女性のどれくらいが「30歳になる」ことを特別視しているかはわからないけれど、私の友人に実際、年を重ねることを恐れている人がいました。「26歳以降は誕生日のお祝いはしないで。バースデーケーキに「3」という数字が表れるのは耐えられない!」と。とても驚きましたが、舞台の脚本執筆のためにその心情に向き合ってみて気づいたのは、私たちが恐れているのは“年を取ること”ではなく、予測のできないことにぶつかり迷いや不安を抱くことなのではないでしょうか。特に女性は仕事や恋愛、結婚・出産と30歳前後は選択を迫られる事柄も多くなることから、友人はそんな言葉を発したのではないかと思います。映画は30歳を迎える女性に象徴させてはいますが、本質として描いているのは、男女問わずどのようなタイミングにおいても直面しなくてはならない人生の問題なのです。

物語には、30歳目前の心模様を際立たせるかのように、朗らかに暮らしていたころの主人公ふたりの思い出の地が出てきます。クリスティが父親とお茶を飲んでエッグタルトを食べている古いカフェやその街並み、ティンロが幼なじみのホンミンと共に訪れる昔ながらのお店やのどかな風景はどんどん消えてなくなりつつあります。私自身もそういった場所が大好きで、思い出もたくさんあるので消えてしまうことはとても残念でなりません。なので、せめて映画の中には残しておこうと思ったのです。クリスティがお父さんと通っていたお店はアバディーン(Aberdeen/香港仔)の大きな団地内にある「銀都冰室/Silver Cafe」で、ティンロがホンミンと語らう海辺や思い出の店はシャーティン(Sha Tin/沙田)からタイポー(Tai Po/大埔)エリアで撮影しました。

キーイメージはパリにて

10代のころに観たレスリー・チャン主演の音楽ドラマ『日落巴黎(日没のパリ)』は思い出深く、私の中でパリは美しさの代名詞となりました。その後、私はパリの演劇学校で学ぶ機会があり、帰国後に舞台版の脚本を書いたのですが、ふたつの強い印象を残したパリを盛り込みたいと思い『日没のパリ』を『29歳問題』の物語のキーとしたのです。ふたりの主人公の暮らしの中に、そのほかたくさんの香港エンターテイメントへのオマージュをちりばめました。それら複数の仕掛けもぜひ楽しんでくださいね。

映画から話はそれますが、パリに暮らしたことで、香港の魅力に改めて気づかされました。それはグルメ!「食」です。私は小食ですが、香港にはそんな女性でも楽しめる手軽で魅力的なお店がたくさんあります。特に魚蛋(魚のつみれ団子)が入った麺が大好きです。とても美味しくてポピュラーな食べ物なので、香港の麺店では出会える確率は高いですよ。パリでは常に香港グルメを思い出しながら過ごしていました。パリの手の込んだケーキよりも、香港の素朴なカスタードクリームの味が一番好きなのです。

香港の土地が持つ多面性

香港を旅行する際に、きっとセントラル(Central/中環)エリアを訪れる人も多いでしょう。主人公のクリスティのようなスタイリッシュな女性はそこにいます。ティンロはラマ島(Lamma Island/南Y島)にいるイメージかしら。ラマ島はセントラルから船で40分くらい。島内には自動車も走っていないのんびりとしたところです。イメージや持つ雰囲気は両極にあるふたりですけれど、香港という土地が元来から持つ表情の多面性もあって、気持ちをつなげたというところもあるかもしれませんね。

個人的に30歳を過ぎた大人の女性におすすめしたいのは、タイポー地区にある三門仔(Sam Mun Tsai)。漁村としてののどかな景色も美しく、とても落ち着く場所です。また、同じ水辺の近くでもスタンレー(Stanley/赤柱)はおしゃれなカフェやショップが並んだおしゃれなエリアです。どちらも、積極的に活動をするところというよりは、のんびりと時を過ごすのに最適なエリア。まるで南仏みたいですよ。

初めて映画監督を務めて

舞台の経験は積んでいましたが、映画の世界は初めてなので、制作チームも初めて接する人ばかり。私の求めている世界を理解してもらうためにとても時間を要しました。映画の制作現場は包容力、忍耐力がないとこなせない作業が無数にあり、リズムをつかむのにも苦労しました。しかも舞台は2年くらいの時間をかけて熟成させるのに対して、映画は半年ほどの急ピッチでことが進みます。独特の緊張感は大きなものでしたが、こうしてできあがったものを国を超えてより多くの方に観ていただけるというのもまた、映画ならではの喜びだと思います。そして、先ほどご紹介したような気持ちを緩めることができる場所が身近にあって助かりました。オンオフともにメリハリがあるという意味でも、香港は本当に素敵なところだと思います。

第37回香港電影金像奨(Hong Kong Film Awards)で最優秀新人監督賞を受賞したのはとても嬉しく、大きな賞をいただいたことが励みになったと同時に、もっともっと努力しなければという思いも強く抱かせました。この映画の観客はリピーターが多いと聞きます。仕事、家族、恋愛、美容や健康、ふたりの主人公の心模様に自身の体験や未来予想図を重ねてくれているようです。これからも、映画を通して世の中に寄り添いあたたかな希望を伝えることができるよう、作品中にも盛り込んだ座右の銘のとおり、ゼロから一歩一歩、人生の階段を上っていきたいと思います。

TEXT:池上千恵

映画監督: キーレン・パン(Kearen PANG/彭秀慧)

香港を代表する女性クロスメディア・クリエーター。 2005年に発表した制作、脚本、主演を兼ねた初めての一人芝居『29+1』は高い評価を得て、2013年までに6回の再演を行っている。同作品を自ら脚色・脚本化した本作で監督デビュー。第37回香港電影金像奨で最優秀新人監督賞を受賞したほか、ニース国際映画祭2017で外国語映画最優秀監督賞、受賞、2017年第12回大阪アジアン映画祭では観客賞と、香港内外で大きな評価と注目を集めている。

「29歳問題」(原題:29+1)


5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック
公式HP:29saimondai.com

掲載情報は、2018年5月時点の内容です。